しましまの夢

ダンスフロアに一貫の寿司

頭の上に落ちてきたんだ

私が居たところは真っ暗でとても寒くとても狭かった。

自分の呼吸を、止まない心臓の鼓動を呪った。

 

それでも、視線をあげると世界は美しかった。

どこかに逃げ出したい、ここではないどこかへ行きたいと願って止まないのに目の前に広がる世界は酷く美しく、私は世界から目を逸らす事が出来なくなった。ずっと見ていたいと願わずにはいられないほど美しかった。残酷だと思った。世界の美しさが私をここに引き留めたのか私が縋ったのか、どちらにしても、それは私にとって絶望だったけれど、それでも、私は生かされた。

 

そのとき、空の青が頭の上に落ちてきたんだ。

今も皮膚の下にその時の青は流れている。

鳴り止まない

静かになればなるほど聞こえる音がある。

 

それは、水の底から次々に登っていく気泡のように

降り始めた雨音のように

小さな子供が聞かせてくれるお話のように

炎がパチパチと揺らめくように

風で揺れる木々のざわめきのように

 

踊るように、軽快に、揺れて暖かくて心地がいい。

今夜も音楽はかけない。

変身と閃光

自分の方向性が確立していくと、今までいいと思っていたもが自分に合っていなかったということを、実感します。相手は何も変わっていないのにね。まだまだ遠くへ行けるかもしれない、高く飛べるかもしれない、ちょっとの期待と、あなたと、誰かと、ここからの景色を一緒に見ることはないこと、寂しく思います。いつもね、少し泣いてしまう。

私はね、美しい景色に出会えると確信している。 景色、その光は眼球に入って私の血液に溶ける。 私達はずっと笑い合っている。 同じ景色を見ることは出来なくても、この血液に流れる光が肌から匂い立つように。希望を想起しますように。どうか、光が届きますように。

自転車のチェーン

自転車のチェーンが外れた。適当に自転車を歩道の端に寄せ、後輪のタイヤの隙間に手を入れてチェーンを手繰る。考え事をしていて頭はぼうっとしていた。どうやってなおすんだっけ。「ひとりで直すの、しんどいですから」友人の言葉を不意に思い出した。

 

数ヶ月前、待ち合わせの目黒に着いた瞬間チェーンが外れたことがあった。ラッキーなのかツイてないのか。しょうがないしまあいいや、そのまま自転車を止めてスタバで友人とお茶をした。 閉店の時間になり店を出ると、自転車まで行きますよと友人が言う。チェーン直す作業あるんでいいすよ、付き合わせるの悪いなと思って言ったけど、いいですいいです、と、結局二人で自転車に向かった。

これっすね、と、自転車のタイヤを覗き込みながら友人は言った「こーゆーのひとりで直すの、しんどいですからね〜」。私にとって自転車のチェーンが外れる、は喜ばしい事ではないが別になんの感情も沸く事ではなかった。不意にタスクが発生しただけである。伝えなかったけど、比較的クールで聡明な友人にとって自転車のチェーンが外れるはしんどい事である、という事が印象的で面白かった。

 

ひとりで自転車のチェーンを直しながら、そんな事を思い出して顔が綻んだ。今でも自転車のチェーンが外れることに特になんの感情もない。けど、その度にこれを思い出すのかもしれない。その度に私はありがとうってその時の友人に微笑む。それはとてもとても幸せな事だと思う。

2021/9/13

あなたの命は空にのぼって空気に溶ける。雲になって世界を巡りながら雨を降らせる。地上に落ちた雨はあの花を育てる。そして私は、流れる雲や澄んだ空気に瞬く星、頬を撫でる柔らかな風に、揺れる花に、貴方を思い出すのです。