しましまの夢

ダンスフロアに一貫の寿司

自転車のチェーン

自転車のチェーンが外れた。適当に自転車を歩道の端に寄せ、後輪のタイヤの隙間に手を入れてチェーンを手繰る。考え事をしていて頭はぼうっとしていた。どうやってなおすんだっけ。「ひとりで直すの、しんどいですから」友人の言葉を不意に思い出した。

 

数ヶ月前、待ち合わせの目黒に着いた瞬間チェーンが外れたことがあった。ラッキーなのかツイてないのか。しょうがないしまあいいや、そのまま自転車を止めてスタバで友人とお茶をした。 閉店の時間になり店を出ると、自転車まで行きますよと友人が言う。チェーン直す作業あるんでいいすよ、付き合わせるの悪いなと思って言ったけど、いいですいいです、と、結局二人で自転車に向かった。

これっすね、と、自転車のタイヤを覗き込みながら友人は言った「こーゆーのひとりで直すの、しんどいですからね〜」。私にとって自転車のチェーンが外れる、は喜ばしい事ではないが別になんの感情も沸く事ではなかった。不意にタスクが発生しただけである。伝えなかったけど、比較的クールで聡明な友人にとって自転車のチェーンが外れるはしんどい事である、という事が印象的で面白かった。

 

ひとりで自転車のチェーンを直しながら、そんな事を思い出して顔が綻んだ。今でも自転車のチェーンが外れることに特になんの感情もない。けど、その度にこれを思い出すのかもしれない。その度に私はありがとうってその時の友人に微笑む。それはとてもとても幸せな事だと思う。